第2章 透鏡越しに 揺蕩う熱※
「xxxxは、俺のこと…どう思ってる?」
救難信号を放って少し経った頃、サボが尋ねた。
先程の私の質問を、同様に返したのだろうか。
信号は無事味方に気付いてもらえたのか、まだわからない。
「どうって…そうね」
「まぁ、どうとも思ってないから断られてきたんだよな…」
「まだ何も言ってないじゃない」
声の振動が伝わることで、サボと密着していることを思い出す。
あまりよろしくないと思いつつも、抱き合うような体勢にも慣れてきてしまった。
まだ時間を持て余すだろうと思ったので、少しでもサボに負担をかけないようにと、私は狙撃銃と銃弾を横に置いた。
「貴方のことは、魅力的な人だと思ってる」
「ほっほんとに!?」
「でもね、遠くから見てるだけでいいの」
薄暗さのせいか、今ここが、例えば子供のころ、就寝前に布団を被って仲間と話すような時間に似ていると思った。
心地の良い、微睡のような時間に。
自分の気持ちを素直に口に出せるのは、そのせいかもしれない。
「遠くって、何で…」
「私は狙撃手だから、貴方が世界を変えていく様を遠くから見ていたいの。それが私の役目」
「それは、仕事の話だろ?」
「きっと、私の性がそうなの。それに」
思えば、サボとこんなに話をしたのは初めてだ。
私はサボの胸に置いていた両腕に、顔を乗せるようにして姿勢を低くした。
俯いたことで、サボの顔が視界から少し消える。
「貴方を照準器で覗いている時間が、好きなの。その世界だけ周りから切り取られて、私だけがあなたを見ているみたいで」
「す…」
「サボって、表情は意外ところころ変わるのに、ひとつひとつの所作は丁寧で品があるの。知ってた?」
目の前にいる本人に問いながら、子供のようなサボの笑顔を思い出して、自然と笑みが零れている自分がいた。
思い出したのは、優雅な立ち振る舞いや、無邪気にはしゃぐ姿だけではない。
「闘っているときは、いつもと雰囲気が違って男らしいっていうか…」
「xxxx」
暫く黙っていたサボが口を割ったかと思うと、私の顔を持ち上げた。
「…サボ?」
その眼差しに、はっとする。
見上げたサボは、真剣な表情をしていた。
けれど、今までに覗いたどれとも違っていて、熱の籠った瞳を、温度が伝わるほどに、私へと真っ直ぐに向けている。
「xxxx、キスしていいか」