第2章 透鏡越しに 揺蕩う熱※
外の音がほとんど聞こえないことから、この場は静まっているように思えた。
戦況は大きく揺らいではいなかったから、仲間たちも一時避難しているはずだ。
あの状況では、体勢を立て直すために、本体と合流するのが筋だろう。
敵はそれを追撃したのか、或いは引き返したのか…。
戦場から言っても、できるだけ早く、静かに、ここから脱したいところだ。
それに、たとえ戦時中であっても、こんなところでサボと抱き合っているのは、精神衛生上よろしくない。
「xxxxの素顔、久しぶりに見たなぁ」
「ンッッ???」
状況整理をしていたら、サボは私の顔を両手で包み持ち上げた。
せっかく落ち着きを取り戻していたのに、いきなり何てことをしてくれるのだろう。
「ほら、いつもはサングラスしてるだろ?」
「…人が真剣に考えているのに、貴方ときたら」
反論するも頬の紅潮を止めることはできず、ここが薄暗くて良かったと思った。
私はサボの手をどかしながら、日ごろの行いを諭すようにして言った。
「前線には出るわ、護衛した意味も無くすわ…総長さんは私の言うことを全然聞いてくれませんね」
「でも、おかげでxxxxと二人きりになれた」
「…だいたい、せっかく護衛したっていうのに、どうして私を助けたりなんか」
「惚れた女を護るのは当たり前だろ!」
「な…」
私の仕事は幹部の護衛なのに、矛盾もお構いなしときた。
そんなことを堂々と言われては、根負けして閉口する他ない。
「サボ、どうして私に、その…近付くようになったの?」
そこまで言うのなら、この際、ずっと胸に思っていたことを聞いてみようか。
サボがなぜ、周りが見てわかる程執拗に、私へアプローチするようになったのかを。
「あぁ。少し前にも、お前に助けられたことあっただろ?」
ほら、と言ってサボがその仕事の内容を話し出すと、あの日のことかと私も思い出す。
難しい現場だったので、護衛されたという印象がいつも以上に残ったのかもしれない。
「敏腕なのは知ってたけど、ほんとにすげェと思ってさ。仕事の後、xxxxに挨拶しに行ったんだ」
そういえばそんな出来事もあった。
皆が宴会をしている中、隅で装備のメンテナンスをしていた私のところへサボがやってきて、お礼を述べ始めたのだ。