第2章 透鏡越しに 揺蕩う熱※
「xxxx、大丈夫か」
細かな瓦礫が天井から落ちる音に交じって、サボの声が聞こえた。
鼻をつく砂埃のにおいと、肩を掴まれる感触に気付く。
私は徐々に互換を取り戻しながら、ゆっくりと目を開いていった。
頭は、ついさっきサボに抱えられて建物から落下したことを、鮮明に覚えていた。
落下によって、私は一時的に気を失っていたようだ。
「…どこも大事はないみたい、サボは?」
「良かった!俺は全然平気だ」
所々打撲したような痛みはあるが、目立った外傷はなく、狙撃銃も背にしていた。
僅かな隙間から差し込む光のおかげで、薄暗いながら、空間の広さや自分の体勢といった情報が見て取れる。
サングラスをしていたせいもあって、目が慣れているのだろうか。
尤も、それは落下の衝撃でどこかへ落としてしまったようだが。
サボの問いかけに答えながら、上体を起こそうとしてある問題に気が付いた。
お気に入りのサングラスを失くしたことではない。
それは、今いる空間の狭さと、自分の体勢だった。
サボが、あまりにも近い…。
スコープの拡大率を最大にしたような距離感に、サボの顔がある。
そして、私はうつ伏せに倒れているが、私の身体が接しているのは地面ではなく、サボの身体だった。
瓦礫によってできた傾斜があるため、ほんの少し半身を起こしたサボと向かい合うようにして抱き合っている、といった具合だ。
敵や戦渦の状況、仲間の安否など、考えたいことはいくらでもあるのに、それらは全て霞んでしまった。
鼓動が速く波打つ音も、密着しているせいでサボに伝わっているかもしれない。
心拍数とシンクロするようにして、先ほどスコープ越しに見た光景が脳裏を過る。
狭く薄暗い空間で、つい先ほど魅入ってしまった男と、抱き合った状態で二人きりになるなんて…。
「ご、ごめん…サボ。私の下敷きに…でも、身動き取れるほどの空間はなさそうで」
「いいよ、俺としてはずっとこのままでもいいくらいだ」
「笑顔でそんなこと言ってる場合じゃ…。でも、ありがとう」
意識を持っていかれないようにしなきゃと、何とかいつもの調子で口を開く。
サボの冗談(ではないかもしれないが)に救われながら、着地の衝撃から守ってくれたことを感謝した。