第2章 透鏡越しに 揺蕩う熱※
反射的に感じた音の近さに、はっと我に返る。
正確には、射撃から被弾までの近さに、だ。
僅かとはいえ放心していたせいで、なぜこんなにも間近にサボの姿が見えたのか、気付くのに時間を要した。
敵軍に気圧されて、狙撃銃の適正な射程距離よりも近くに来てしまっていたのだ。
しかも、不運なことに、サボの背後には敵が、今まさに襲いかかろうとしている。
この距離で援護をすれば、私の居場所は間違いなく突き止められ、自身を危険に晒すだろう。
サボなら致命傷を避けるかもしれないが、敵は厄介な能力者かもしれない。
どうする、否、迷っている時間などないはずだ。
私は自分を叱咤すると同時に射撃した。
銃弾は命中し、敵はサボに攻撃する前に崩れ落ちる。
案の定、狙撃の出所が気付かれる。
次の瞬間には、足場としていた建物が、敵の一斉攻撃により簡単に破壊されてしまった。
そうなる前にと、瓦礫と化していく足場を早々に抜け、建物を飛び移りながら逃げようとしていたが、それも敵に阻まれてしまう。
スナイパーにとって接近戦はとことん不利だ。
装備が重すぎて動きは鈍いし、まだ近接に目が慣れていない。
せいぜいライフルを盾にするなどして、身を護るのが精一杯だ。
それも、複数人を相手にすると、勝ち目などなかった。
崩れかけた建物の最上階で、敵がにたりと笑って私を包囲する。
後退りをすると瓦礫の落ちる音がして、背後に逃げ場がないことを伝える。
攻撃はいつ飛んできてもおかしくない。
じわりと滲むような緊張感が身を蝕む。
しかし、このいやな空気は早々に断ち切られたのだった。
「xxxx!」
サボの声…?と思う時には既に、視界が宙を泳いでいた。
空の次は先ほどの敵、次は倒壊するビル、と順に視野に入ったと思ったら、小さく遠ざかっていく。
遅れて感じたのは、重力を身に受ける体感と、身体を包み込む力強さ。
たった今自分に起きたことを、順を追って理解した。
私は、サボに抱えられ落下している。
攻撃を避け建物から飛び降りたのだと直感したのも束の間、敵による激しい追撃が始まる。
追撃は狙いを定めているとは言い難く、銃弾や爆撃、はたまた能力者の技は広範囲に及んだ。
元々崩れかけていた周囲の建物は、どんどん崩壊していった。
頭上から次々に降ってくる瓦礫を、私はサボの肩越しに見つめることしかできなかった。