第2章 透鏡越しに 揺蕩う熱※
今日みたいに風の穏やかで、雲も少ない比較的良い天候であっても、暴動の最中は粉塵や煙で視界は最悪だ。
視界不良を計算・補正してくれるスコープを用いても限界がある。
結局は、不意にできた僅かな視界を狙うなど、最後は経験と勘でどうにかするしかないのは、どこの現場でも変わらなかった。
ライフルを構え照準器を覗くと、サボが先陣を切って戦渦へ突入していくのが見えた。
あの人は総隊長である自覚がないのかもしれない。
自ら敵に首を差し出しに行くなんて、狙撃手の苦労も知って欲しいと苦言しても、お前が護ってくれるんだろ?と笑顔で返されては何も言えなかった。
戦場でのスナイパーの存在は大きい。
私はサボが闘いやすいよう援護する以外に、市民を襲う輩や厄介そうな敵が視界に入り次第トリガを引いた。
一撃、二撃と射撃すると、サイレンサーを付けているとはいえ、轟音が響く。
しかし、その銃声も暴動の音に掻き消され、狙われた者は音もなく攻撃されたように感じてしまうのだ。
つまり、狙撃は敵に恐怖心を与え、士気を低下させるのにも一役買っていた。
サボが大きく移動する度に、私も足場を変える。
今日はもう何度足場を変えただろうか。
なかなか鎮静しない暴動に、おかしいと思い始めてからしばらくが経過していた。
想定していたよりも、明らかに敵の数が多いのだ。
常に追われる立場の革命軍は、いつどこで情報を抜かれているか分からない。
海賊か、ブローカーか、はたまた新聞社かが、この情報を流したのかもしれない。
しかし、今回ばかりは少々骨が折れそうだ。
サボを囲む敵の数は増していき、足元には空の薬莢が増えていく。
「こんなところでも囲いを作るなんて、モテるのね」
嫉妬しちゃうじゃない、とぽつり漏れた独り言は、銃声と合わせて空へ上らせる。
こんな冗談がサボに聞こえていたらと思うと、掻き消さずにはいられなかった。
偶発的に、射撃後のスコープには、そのサボが映り込む。
好戦的な瞳と、荒々しい息遣い。
端正な顔に撥ねた泥、頬を伝う汗、傷口に滲む赤。
それらを拭う仕草で、亜麻色の髪が揺れる。
僅かコンマ数秒の視覚情報が、映像フィルムを一枚ずつ目視したように、音もなく私の脳へと送り込まれる。
それは、瞬きひとつ落とす程度の時間だっただろうか。
近接で初めて見る、闘うサボの雄々しさに、魅入ってしまう自分がいた。