第3章 【救国の忠騎士】救国の忠騎士
「ランちゃん!気を抜いたらやられるぞ!」
狼狽え止まないランスロットをヴェインが一喝する。だが彼も彼で、頭の中は混乱している事に違いなかった。
「チィッ!ったく…信じられねぇことばっかだが…フェードラッヘ兵が見境無しに俺らを狙ってきてるのは確かだ!」
この事実だけは覆る事は決してない。後は何を信じ、どう行動するか。揺らぐものの中、どの足を踏み出すかだった。
「…馬鹿な。これでは…何もかもあべこべだ!民の幸福を一番に考えてきたイザベラ様が…裏で国民を欺き……国王殺しの大罪人と蔑まれたジークフリートが、国民の命を守る為に剣を振るっていただと…」
兵達を退けながら、ランスロットは苦悩に声を震わせる。
「霊薬は…アルマは民を幸せにする奇跡の薬ではなかったのか…」
「…そんな都合のいいもの、最初から存在しなかったのかもしれないわね」
隣りで呟いたサフィアに「え」とランスロットは声を漏らす。サフィアは彼の顔を見上げて続けた。
「奇跡なんてそう無いって事よ。何かしら、対価を払う必要がある。それは金銭じゃなくて、理の、ね」
「…っ」
ギリ、とランスロットは奥歯を噛み締めた。とその時、気を散じたランスロットに向けて宮廷騎士の剣が振り下ろされる。ランスロットもサフィアも咄嗟の対応が間に合わない。だがそこに黒い影が滑り込み、ランスロットに剣が振り下ろされる事は無かった。
「目を覚ませ、ランスロット!」
ジークフリートが声を張り上げる。
「剣に迷いが生じれば、ここで命を落とす事になるぞ。そう、教えたはずだ…昔にな」
「ジークフリート…」
イザベラは自らの欲の為に霊薬を使い、そのツケは民が命を削り、払い続けているのだ。
「…ランスロット。私はジークフリート〝さん〟を信じるわ」
「サフィア…」
「だって私は、ジークフリートさんがこんな嘘をつけるような人じゃ無いって、知ってるもの。それにもう、この状況、明らかじゃない」
ランスロットだって本当はそう思ってるんじゃないの?と言われ、彼は黙り込んでしまう。口下手で多くを語らない、いわば行動で率いて来た元団長。表では国を想い行動して来たが、裏では私利私欲の為に民を苦しめている執政官。そして、本気で殺しにかかってきている彼女の配下の騎士達。