第11章 潜入、白鳥沢学園1日目〜初めての感覚〜
(しまった……!)
私にとっては初対面じゃなくても、工にとって『私』は初対面なのだ。だから詰まりながらも、今まで名前じゃなくて苗字で呼んでいたのに、慌てすぎて気が緩みつい名前で呼んでしまった。
「ご、ごめんなさい!私」
「いい」
「……え?」
「名前で、いい。……そっちの方が、何だか耳に馴染む」
「……っ!?」
工は静かに囁くようにそう言うと、小さく微笑んだ。その表情を見た瞬間、自分の心臓が大きく脈打ち、まるで血が沸騰したかのように全身が熱くなるのが分かった。
(なに、これ……)
今まで、こんな感覚になった事は一度もない。慣れない感覚に戸惑いながらも目が離せないでいると、工は表情をそのままにそっと手を伸ばしてきた。そして私の頰をスルリとひと撫でしてから口を開いた。
「顔真っ赤。……かわいい」
「かっ……!」
一体工はどうしてしまったのか。知っている人の筈なのに、まるで知らない人になってしまったかのようだ。
先程の爆弾発言のせいで口をパクパクしていると
「あいたっ!!」
「ひゃあっ!?」
バコン、といういい音がしたと思ったら、突然工が顔を歪めて苦悶の声を上げながら起き上がった。それに驚いていると、工は痛そうに自分の足を擦りだした。よく見てみると、近くにバレーボールが転がっている。……どうやら、工の足にバレーボールが当たったみたいだ。
「誰ですか!俺にボールを……ヒィッ!?」
「?……ヒィッ!?」
工が怒りながらボールが飛んできた方に顔を向けた瞬間、声を引きつらせた。それを不思議に思い、同じ方向に顔を向けた瞬間、私も思わず声を引きつらせてしまった。何故なら––––
「…………」
そこには目にハイライトが灯っていない白布さんが立っていたからである。その姿は恐怖以外の何者でもない。
白布さんは1回顎をクイっとコートの方に向ける。たったそれだけの仕草なのに、白布さんが何を言いたいか分かってしまった。
「回復したならさっさと戻ってこい」と、目が語っていた。
「は、はいっ!!」
それが工にも伝わったのか、恐怖で声を震わせながらも大きな声で返事をして立ち上がり、駆け足でコートに向かって行った。
白布さんを怒らせてはいけないと、固く誓った瞬間だった。