第5章 工以外の人間
今より昔のむかしの話だけど、妖怪と人間が共存していた時期があった。その時に、今の住処であるこの社は人間がつくってくれたものらしい。詳しくは分からないけど、そう大婆さまから教わった。
飛ぶ事数秒、社が見えてきてちょうど戸の前に降り立ったら、中から大婆さま以外の気配がしてきた。これが妖怪の気配ならお話中なんだなと思い出直すけど、そうじゃなかった。
(な、なんで……、中から人間の気配が……)
妖怪とは全然違うから、すぐ分かる。この、何て言ったらいいか分からないけど、人間特有の気配というのが戸の向こうからしてきたのだ。
それを理解した瞬間、自分の足が竦むのが分かった。そして蘇る。幼い頃人間によって傷つけられた、あの光景を。
工以外の人間を遠巻きに見るのは平気になったけど、対面するのはまだ無理だ。それなのに、今この戸を開けたら確実に中にいる人間と鉢合わせしてしまう。
(それは、少し嫌だな……)
出直そうと思い、方向転換する。そして飛び立とうとした瞬間だった。
「そこにいるのは、真白かい?」
「!?」
中から少し嗄れた、大婆さまの声が聞こえてきたのは。
驚きでビクリと体を揺らし後ろを振り返るけど、戸が開かれる様子はない。どうしようと思っていると、もう一度中から同じ質問が投げかけられた。
「は、はい!真白でございます!」
口調が可笑しくなったのは見逃して欲しい。それだけ驚いたのだ。
トットット、と足音が聞こえた後、ガラリと戸が開き中から大婆さまが出てきた。大婆さまも私と同じ白鷲の妖怪で、白い毛並みが少し霞んでいるけど、大婆さまはもう長い事生きている。妖怪も自然の理には逆らえないのだ。
「今は社には近づくなと、茶尾に言っといたのだがなぁ」
「えっ!?そうなのですか!?」
「……その様子では、茶尾は忘れていたようだな」
「忘れていたどころか、大婆さまの居場所を教えてくれたのは茶尾なのです……」
少しの沈黙の後、私と大婆さまの口からため息が同時に出た。相変わらず、茶尾は茶尾だった。