第5章 工以外の人間
「尼袮、どうしたんだ?」
「……鍛治」
「!?………?」
(『たんじ』……?)
大婆さまと話していると、痺れを切らしたのか、社の中から気配がしていた人間が顔を出してきた。工以外の人間が目の前にいる、その事実に体が硬直し顔を俯かせたけど、聞き覚えのある名前を不思議に思い顔を上げた。
「あ……」
聞き覚えがある筈だ。何故なら私の目に映ったのは、男性にしては小柄な身体で威厳のある風格を持ち合わせている、見覚えのある人だったのだから。
(工が入ってるバレーボール部の……、確か『監督』の人だ)
赤い髪を逆立てている男の人が、彼の事を『鍛治くん』と呼んでいるのをよく聞いていたので覚えている。まさかここで対面する事になるとは思いもしなかった。
……もう知っていて、工がよくお世話になっている人だからだろうか。あんなに抱いていた恐怖心が消えるのが分かった。
「この白鷲、お前んところのか?」
「ああ。名前は真白という。いい名だろう?」
「真白か……」
鍛治さんは私の名前を呟くと、じっとこちらに視線を向けた。突然の事だったのもあるけどその強面のせいか、見つめられてピッと背筋が伸びる思いがした。
見つめられて数秒だろうか、不意に鍛治さんの手が伸びてきて私の頭を撫でてきた。突然の事に目を白黒させていると、分かりづらいけど、でも確かに笑って言った。「ああ、いい名だ」と。
先程まで怖がっていたくせに現金な奴だと思われるかもしれないけど、やっぱり褒められるのは嬉しい。翼を広げてバサバサしながらお礼を言うと、また優しく頭を撫でてくれた。
「それで真白。わたしに何か用事でもあったのか?」
「あっ、そうなのです。実は、大婆さまにご相談したい事が」
「なら、俺は席を外した方がいいか」
「いえ。もしかしたら、鍛治さんもいてくださった方がいいかもしれません。……その、白鳥沢学園の生徒さんの事なので……」
私がそう言うと鍛治さんは真剣な表情になり、視線を大婆さまに向けた。その視線を受けた大婆さまはひとつ頷き「真白、入りなさい。話は中で聞こう」と私を中へと促した。
「失礼します」
私は一言断ってから入り、静かに戸を閉めた。