第19章 潜入、白鳥沢学園3日目〜真夜中の食堂〜
でもそんな中、脳は奇妙なくらい正常に動いていて、真っ先に思い浮かんだのは工と過ごしたあの日々の事だった。……私の怪我が治るまでの、あの楽しかった日々。
(なんで……どうして……)
いくつもの疑問が浮かんでくる。
私はあの時、たくさん考えた末、工が悲しまないように過ごした日々の記憶を確かに消した。だから私の事など微塵も覚えていない筈なのだ。姿形も、声も。
なのに、工は私を知っている気がすると言った。会った事があるかとも。……いや、そもそも私はあの時ずっと白鷲の姿で、人間の姿になった事は一度もない。だから記憶を消そうが消すまいが、「私」の事は知らない筈なのだ。
(なのに、どうして……)
「真白……?」
「っ……!」
頭の中でぐるぐる考えていると、工が不安そうに顔を覗き込んできた。そこで私は思い出す。ぐるぐると考えているだけで、肝心の工の質問に答えていなかった事を。
「あ……」
でも、何て答えたらいいのか分からない。まさか正直に話すわけにはいかないし、そうしたら、工の記憶を消した意味がなくなる。
口を閉じたり開いたりするだけで何も言えない私に、不意に工は自嘲気味に笑った。
「……ごめん。いきなりこんな事聞かれて、やっぱり引いたよな……」
「っ! 違います……!」
「!」
その表情を見た瞬間、その言葉を聞いた瞬間、胸が締め付けられる思いをして、気付けば私は前のめりになって全力で否定していた。
確かに、工から見たらそう見られても仕方ない態度を私はとっていた。でも違う。違うのだ。
この時の私は、工に嫌われたくない、悲しませたくない一心だった。
必死に違うのだという事を伝えていると、工は丸くしていた目を細め少し嬉しそうにはにかみ、手を頭の後ろにやった。
「そ、そんなに全力で否定してくるとは思わなかったけど……でも、よかった。真白に引かれてなくて」
「ごめんなさい……」
「あっ!いや!俺の方こそ早とちりしてごめん!」
「いえ…そもそも私が勘違いさせるような態度をとっていたのが悪いのです……」