第19章 潜入、白鳥沢学園3日目〜真夜中の食堂〜
「!?」
その瞬間、工の右手がビクリと揺れ、ハッと我に返ったように目を見開いた。そしてその表情のまま、掴まれている自分の右手首と私の顔を交互に見ていく。
……状況を理解するためだろうと分かっているけど、私の顔はあまり見ないで欲しいと切実に思った。先程のせいで顔は赤く、きっと変な顔になっていると思うから。
でも、そんな複雑な胸中を工は知る由もなく、何度も交互に見ていく。そして視線を私の方で止めたかと思いきや、ピシリと身体を固まらせ次の瞬間––––
「うわあああっ!?」
「!?」
今の状況を理解したのか、工は私の両手を振り払い叫び声を上げながら慌てて立ち上がった。その顔は、私に負けず劣らずの真っ赤さだと思う。
「っ、うわっ……!」
「つ、工……!」
突然の叫び声とその顔の赤さに驚いていると、急に立ち上がった事が不幸を招いたのか、工は足を滑らせ身体が後ろに傾いていく。それを見て、慌てて手を伸ばしたけど無残にも空を切り、そのまま工の身体は派手な音を立てて床に倒れ込んでしまった。
「工…!大丈夫ですか……!?」
派手な音に思わず目を瞑ってから、慌てて工に駆け寄り膝をついて顔を覗き込む。頭を打っていたら大変だ。
心配して見つめていると、工は小さく苦悶の声を上げながら起き上がり、手の平を私の方に向けた。
「だ、大丈夫…。咄嗟に受け身をとったから……」
「本当ですか…?よかった……」
流石はバレー部。受け身をとるのは慣れている、という事だろう。
ホッと胸を撫で下ろしていると、工は申し訳なさそうに眉を下げ、こちらを見てきた。
「それより、ごめん…。急に頭を撫でて…。突然で驚いたよな……」
「え、あっ………えっと、確かに驚きはしましたけど、でも嫌ではなかったのです」
うん。そうだ。
確かに工の言う通り驚いて、自分の心臓も大変な事になっていたけど、不思議と嫌な気持ちになる事はなかった。
そう、私はただ、恥ずかしかっただけなのだ。……他の人達は平気だったのに、何故工だけにはそんな気持ちを抱いてしまったのかは分からないけど。