第17章 潜入、白鳥沢学園2日目〜天狗のお面〜
時は遡り––––
「…………」
「ハア、ハア……」
ちょうど真白が走っているバレー部の姿を見つけた時、牛島と五色は遥か前を走っていた。だが、少し息は乱れているがまだ余裕のある牛島に対し、五色は激しく息が乱れ走るフォームも崩れている。その表情は傍から見ても余裕がなく、苦しそうに歪められていた。
その様子を見かねてか、牛島は少しだけスピードを落としチラリと五色を見て声をかけた。
「五色」
「! な、何ですか…牛島さん……」
「昨日監督も言っていたが、自分のペースで走った方がいい。無理に俺について来なくていいんだぞ」
「な、何言ってるんですか…。これが、俺の…自分のペースですよ……!」
「……そうか」
明らかに虚勢を張る五色。それに対して気付いていないのか、それともあえて気付いていないフリをしたのか、牛島は軽く頷くとまたスピードを上げて走り出す。その後を必死に追いかける五色だが、追い越すどころか隣に並ぶ事すらもう出来なくなっていた。
どんなに足を動かしても、牛島との距離がどんどん開いていく。その事実に、五色の胸中は悔しさでいっぱいだった。
(何で…何で俺は、牛島さんに追いつけないんだ……!)
心の中で思わず自問するが、そんなの分かりきっている。実力がまだ牛島には劣っているからだ。
体力も、走るフォームも、歩幅も何もかも違う。それが妬ましくて、悔しくてたまらない五色。
そんな五色の頭の中で、不意に真白の姿が映し出される。その姿を思い浮かべた瞬間、あんなに蔓延っていた嫉妬や悔恨がなくなるのが分かった。その代わりに、「何をしてるんだ、工!」という自分自身に問いかける言葉が生まれた。
(そうだ。俺はいつだってそうだったじゃないか……!)
どんなに牛島に敵わなくとも、諦めずに挑み続けたのが五色の強み。それさえもなくなってしまったら、一生勝つ事など出来なくなってしまうだろう。
(ありがとう、真白。お前のおかげで、大事な事を忘れずにすんだ)
何故真白の姿を思い浮かべただけでこうなったのか、という疑問は五色の中で生まれず、ただ自然に受け入れていた。それがどういう意味なのか、まだ知らずに。