第1章 story Ⅰ
「嫌なら別にいいけど。」
浅見の冷たい言葉に、俗にいう「押しても駄目なら引いてみな」なのだと分かっていたが、瑞希は意を決した。
「わかった。今の暮らしも気になるし、行ってみようか。」
浅見はその言葉を待っていたかのように、軽く笑みをこぼした。瑞希と浅見は席を立ち、カフェを後にする。
浅見のマンションは本当に近く、カフェから歩いて十分位の所にあった。閑静な住宅街にたたずむ十五階建てのマンション。そこが浅見の住んでいるマンションらしい。
「こんな立派な所に住んでたのか…。」
「立派?まぁ、立派ちゃ立派だね。」
マンションのエントランスに入ると、床も壁も綺麗に磨かれていて、いかにも高級感を漂わせていた。浅見は、オートロックに自分の部屋番を入れると、エレベーターに続くドアを開けた。