第1章 story Ⅰ
瑞希はカルティエの腕時計を見ると、十一時を過ぎてる事に気が付いた。鞄と椅子の背もたれに掛けていた上着に手をかける。
「こんな時間まで付き合わせてすまなかったな。帰るよ。」
また何処かで逢えるし、その時にこうして話せばいい。
「浅見も元気で____」
「鷹、寂しそうな顔してる。」
椅子から立とうとした瞬間、浅見の心の中を読んだ言葉に瑞希は驚きのあまり目を見開いた。浅見は全て考えてることを見透かしたように笑いだした。
「アハハ!俺のマンション近くなんだ。…来る?」
「…は?」
「俺はまだ、話したいんだけど。鷹もでしょ?」
確かに、まだ私も浅見と話がしたい。しかし、今は違えど刑務官と受刑者。たかが話すだけで、家になど行って良いものなのか。瑞希の頭の中でグルグルと考えが巡った。