第3章 story Ⅲ
珈琲の香りが瑞希の周りを包み込む。飲まなくても、この香りだけで精神安定剤のように心を穏やかにしてくれる。
珈琲を片手に窓から外を眺めた。
さて、これからどうしたものか。
家に帰るも距離があるし、雨が止むまでここに居るわけにもいかない。
携帯を握りしめ、浅見の電話帳画面を開いた。
__ここで電話をかけたら負けた気がする。__
どうしても通話を押す勇気が出ない自分に苛立ちを覚える。ため息をつき、テーブルに片腕を置くと枕代わりに伏せた。頭元で腕時計の秒針が音をならす。
__こんな自分は嫌いだ。どうしてあいつの前では素直になれないのだろう?__