第9章 満月の夜に(終)
春の京都。
満開の桜は散り際となり、彼方此方ではらはらとピンクの花びらが舞い散る。
母の友人である純礼が住職を務めるのは小さな寺。
同じ敷地内に住居と庭があり、手入れが行き届いた庭に面した縁側から清は満月を眺めていた。
無事大学を卒業し社会人になった彼女は、数年に一度日本を訪れていた。
純礼の好意に甘えて、この家に泊まってもう5日。
客間を借りそこで寝泊りしながら京都の街を観光していた。
きっと日本に一人で来られるのもこれが最後。
清の身体には新しい命が宿っていて、夏には結婚する。
日本と違って欧米では婚外子は珍しいことではない。自分自身もそうだし。
それでも彼は戸籍上も清と夫婦になることを望んでくれた。
その日の夜は澄んだ涼しい風が吹いていた。
もうすぐ日が変わる。経過は順調とはいえお腹の子のことを思えば、もう寝床につかなければならないのに何故だかそれはできないでいた。
一体何を期待して待ってるの?
誰もいなかったはずの月明かりで照らされた庭に、人影が見えた気がした。
風が吹く。何十年も前からこの庭にある桜の木が花びらを舞い散らせ騒めく。
そう、ここにいるよって教えるように。
「やぁ、清」