第9章 満月の夜に(終)
その場所に立っているのはジーンだって、すぐにわかったの。
偽りのない優しい顔で微笑んでいたから。
「……ジーン…?」
「うん。久しぶり」
彼はあのときのままのあどけない顔で笑った。
その顔はひどくせつなくて、苦しくて。
当然のように彼は15歳から成長していない。
「…どうして……?」
「ああ、どうしてだろう。どんなに会いたくても僕は清にだけは会えなかった。見つけても近づけないんだ。清の周りにはバリアみたいなものがあって、この身体じゃ弾かれてしまう。
だけど、ここは特別みたいだ…」
彼は不思議そうに辺りを見回した。
「…会いに来てくれたの?夢でも嬉しいよ」
清は泣きたいのを堪えて笑った。
ずっとずっと会いたかった。だけど、それはもう二度と叶わないのだと思っていた。
「伝えたいことがあったんだ、ずっと…」
「なぁに?」と清は問い掛ける。
彼は照れたように笑った。
「…夜空を一緒に見たかったんだ。ほら、月が綺麗だよーー」
ジーンの言葉に清は空を見上げた。
「…そうだね。今日は満月だもん…」
「そうじゃないよ。鈍いなぁ、清は」
清はジーンを見返した。
その顔はすごく恥ずかしそうで、嬉しそうで、哀しそうで。
「…愛してる、清」