第9章 満月の夜に(終)
「"月が綺麗ですね"
どういう意味か知ってる?清」
「…そのままじゃないの?」
ジーンと一緒に自転車で買い物に行った帰り道。
まだ空は青くぽつんと浮かぶ白い月を見ながら、清は答えた。今夜は満月なんだとそのとき気がついた。
ジーンは得意げに笑う。
「昔、日本人のえらい作家が"I Love you"を"月が綺麗ですね"って訳したんだって」
「へぇー、ロマンチック!ジーン日本人じゃないのに、物知り!」
「やっぱり、そう思う?ナルに言ったら、『それで?』で終わり」
「ナルはそんな話興味ないからねー。私も誰かに言って自慢しよっと!」
「教えたの、僕だから。忘れないように」
「はーい」
清は返事をして、また二人は自転車を漕ぎ始める。
その日のことを忘れるわけない、一生。