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ヤドリギ【ゴーストハント】

第8章 月が綺麗ですね



明らかに気落ちした真砂子に掛ける言葉がなかった。
何年も想い続けているのに、ナルとの距離は縮まらない。それが一番もどかしいのは本人だろう。

「…麻衣、あたくし今日は帰りますわ。明日、テレビの撮影で朝早いんですの…」
「待って、あたしも帰るよ!じゃ、またね!」

麻衣は滝川と安原に手を振ると、足早にエントランスへ向かう真砂子を追って行く。

その姿が完全に見えなくなってから、男二人は口を開いた。
日本支部のメンバー間では真砂子がナルにアプローチしていたのは公然の事実だ。ナルにその気がなかったことも。

「…さすがに真砂子が気の毒だったなぁ。何か土産でも買って行ってやるか」
「ですね…」
ここは女同士の麻衣に任せるしかない。



「待ってって!真砂子!」
逃げるように駅へ向かう真砂子を麻衣は追いかけた。手を伸ばし、彼女の手首を捕まえる。

「…麻衣、あたくし悔しくて…」
立ち止まった真砂子は振り向かずに涙をこらえる。
どうしてナルの隣にいるのは自分じゃないんだろう。彼を想う気持ちは誰にも負けないのに。

「わかるよ。真砂子はずっとナルを好きなんだもんね」
「……っ」

涙が頬をつたう。丸めた背中を麻衣がゆっくりさすってくれたのが温かかった。

失恋したとは思っていない。でもこの先ナルが自分を選んでくれる確証もない。

この心の痛みも、悲しみも、いつかは笑い話になるのだろうか。




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