第8章 月が綺麗ですね
「滝川さん、安原さん、こんにちわ。お久しぶりですね」
にっこり清は笑った。驚いた半面、やっぱりという思いもある。
「本当にナルって口が悪くって、すみません。何でそんなツンツンした言い方するの?」
「清には関係ない」
「もー!」
清はナルの隣に座ると麻衣と真砂子の方を見て、「すみません」ともう一度繰り返した。
二人とも狐につままれたようにキョトンとしている。
「……ナルちゃん、お嬢さん邪魔した。ほら来い、麻衣と真砂子」
滝川が麻衣と真砂子を引っ張り起こすと、二人とも「えっ?えっ?」と動揺したまま立ち上がり、引きずられるままその場を後にした。
滝川は二人を建物の裏まで連れて行くと、やっと手を離した。
「…あの方は、誰ですの?滝川さんはご存知でしょう?」
言い方は丁寧だが、真砂子の睨みつけるような顔が怖い。
「…ナルのイギリスの幼馴染みだよ。何で日本に来てるのかは知らねぇ」
「あっ!どこかで見たと思ったら、ナルのアルバムの子だ。ぼーさんも安原さんもいつの間に知り合いになったの?」
「話せば長くなるもので…」
そう言いつつ、安原は真砂子の様子を盗み見る。まずい予感は的中したらしい。
「…幼馴染み…」と真砂子は下を向いて呟く。確かにアルバムにはナルとジーンと一緒に写り込んでいる少女がいた。それが、さっきの人。
どうしてこんなに苦しいんだろう。
特別な間柄と予想した相手はやっぱりナルと近しい人物だった。
自分よりずっと、ずっと。