第8章 月が綺麗ですね
「ナル…!」
ナルに駆け寄る真砂子を麻衣と滝川は呆気に取られたように見つめる。
声を掛けられて顔を上げた彼も驚いたように真砂子を見た。
「…原さん?」
「こんな所でお会いするなんて偶然ですわね。一体誰とー…」
笑みを浮かべていた真砂子の顔が陰る。
(ナルは誰とここにいらしたのかしら…?)
仮に真砂子が誘っても一緒には来てくれないだろう。まだナルの正体が明かされる以前ならともかく。
ナルと夢の国でデートするなんて、それは特別な間柄。
「ナル、どなたとこちらへいらしたの?」
「…それは原さんとは関係ないと思いますが」
「関係ありますわ!」
真砂子はナルの腕をギュッと掴んだ。ナルはその手をさっと払い除ける。
「プライベートですから」
ナルは上っ面だけで笑ってから真砂子にそう告げた。
その言葉に真砂子は少なからずショックを受けた。自分がどんなに想っていても、彼にとってはビジネス上の付き合いに過ぎない。
「わー…、ほんとにナルだ。何やってんの?」
「休暇中だ。邪魔はしないでもらいたい」
麻衣と滝川、それに安原の顔を見てため息をついたナルは迷惑そうにそう言った。
「何それ?もー、ひどい言い方!謝って、ナル!」
その声はナルの頭上から聞こえた。
レジャーシートに膝をついていた真砂子と麻衣が顔を上げると、二人分のホットドッグとアイスティーをトレイに載せた女の子が立っていた。