第8章 月が綺麗ですね
ナルは広場のレジャーシートの上にいた。いわゆる場所取りである。
パレードまでの時間、清は買い物に行ってくると店の方へ向かって行った。同行を求めずに場所取りを頼まれたことはナルにとっても有り難かった。
周りが少し騒がしいが、人混みの中連れ回されるよりマシだ。小難しそうと清がいう本を広げ、あぐらをかいて下を向いた。
安原は見間違いだと思いたかった。
アトラクションを楽しんだ後、麻衣達がパレードを観たいと言ったので観える場所を探しながら歩いていた。
広場には大勢の人がレジャーシートを敷いて場所取りをしていた。
その中に他に間違えようがない眉目秀麗な彼の姿を見つけたのだ。
まさか一人じゃあるまい。問題はナルが誰と来ているかということ。彼のプライベートは謎だ。日本に友人がいるのかもしれない。
それでもこんなデートスポットに一緒に来る相手は、イギリス在住の幼馴染みという彼女しか思いつかない。
「安原さん?あっち空いてるみたい」
「ああ、すみません」
一人で思案していたら、他の三人と少し距離が空いていた。
見なかったフリが一番いいのかもしれない。この女子二人に気付かれると非常にまずい気がする。
早足で皆の所に駆け寄ろうとした、そのとき。
「あ…、ナル…?」
振り返って安原を見ていた真砂子の顔が和らぐ。彼女の視界には確かに想い人を映していた。