第8章 月が綺麗ですね
まだ開園前というのに、夢の国前には長蛇の列ができていた。人酔いするし、人混みは嫌いだ。
チケットブースに並んで、大勢の人の流れと共に園内に入る。
「わぁ!すご〜い!」
周りに広がる景色を見て清は感嘆の声をあげた。
イタリアのヴェネチア風の街並みと遠くに見える火山は異なるものであるのに確かに馴染んでいる。
だがヨーロッパ風の街並みなら珍しくも何ともないだろう。
「あーー!!」
何かを見つけて清は駆けていく。
ナルがギョッとしたのはネズミの着ぐるみに群がる人達だった。
「あー…、写真撮れなかった…」
「何で着ぐるみと写真を撮る必要がある?」
「着ぐるみっていう言い方やめて…」
また歩き出した清はアトラクションに乗るとか言い出した。
「ナルって絶叫系乗れたっけ?」
「乗ったことがないからわからない」
テーマパークの何にも興味がなさそうな彼。
とりあえず待ち時間が少なそうなアトラクションから乗ることにした。
「パレードは3時からで…、花火が8時ごろ…」
休憩という名目でチュロスを片手にベンチに座り、パンフレットを見ながらブツブツ呟く清。
隣で本を読んでいたナルはあることに気がついた。
「まさか夜までここにいるつもりか?」
「え?そうだよ?」
さも当然のように言葉を返され、ナルはげんなりと嘆息する。
「………はぁ…」