第8章 月が綺麗ですね
渋谷のとあるカフェ。
麻衣は真砂子を目の前に大きなあくびをした。
「眠そうですわね、麻衣」
「だってナルの奴、変な時間に連絡寄越すんだもん!」
臨時休業の知らせが麻衣に届いたのは夜遅くだった。
突然ナルから明日は休みだと連絡があり、事務所のスタッフである安原と手分けして協力者全員に連絡し終えたのは12時前。
それから風呂に入り、さっさと寝て、早朝から事務所近くのカフェで真砂子と待ち合わせして今に至る。
「ナルから直接連絡がいただけるなんて、うらやましい限りですわ」
「それは仕方がないかと…」
ジロリと睨みを利かす真砂子に麻衣はタジタジだ。彼女はまだまだナルに片想い中なのだ。
今日は祝日で、普段大学に通う二人も休み。
バイトが休みならと朝早くから麻衣を呼び出したのは、真砂子の方だ。
「実はテレビ局のスタッフからいただいたんですの、このチケット。休みなら一緒にどうかしらと思って」
「これ、夢の国のじゃん!行く行く!行かない理由ないでしょ!」
「行きたいと言っていましたものね。感謝してくださいまし」
「神様、仏様、真砂子様…」
真砂子は手を合わせ自分を拝む麻衣の姿に、思わず笑みをこぼしたのだった。