第8章 月が綺麗ですね
大富豪の老人、エドワード・ラッセルは孫のように清を可愛がっている。
この話を操が逃すはずはない。ちょうど良い距離感を保ちながら彼と接触しパトロンに引き入れようとしていた。
ケンブリッジ大学は10月から。
夏休み中の清が日本に行くと知り、某テーマパークのチケットをプレゼントしたのは他でもないエドワードだ。
彼がプレゼントしてくれたのは2枚。
日本にいるボーイフレンドの分も用意してくれたのは、エドワードの厚意に他ならない。2人でテーマパークを楽しみ、それを彼に伝える義務があるのだと操は声高に主張した。
調査のための高性能な機材が購入できるかどうかがかかっているのだ。「一日ぐらい清に付き合ってあげてもいいじゃない」という言葉の中にある思いは上司としてなのか、母としてなのか。
ともかく、ナルには断るという選択肢は与えられなかったのだ。
清が予約した外資系ホテルに着いたとき、夜の8時を回っていた。
フロントで鍵をもらい、キャリーケースを運ぶ。
(……ナルは同じ階にいるって言ってたなぁ)
操は予約するときにナルと近くの部屋にしてくれるよう頼んだらしい。
(子供じゃないんだし、別にいいのに)
それでも挨拶ぐらいはするべきだろうか。
清は荷物をあらかた片付けると、教えてもらっていた部屋へ向かった。