第5章 彼の日常
ジーンは真性のサイキックだからといって、ナルのように心霊現象に強い興味を抱いていたわけではない。
自分の進路をあえて急いで決めようとしていなかったのかもしれない。
何を専攻したいとか、どこの大学に入りたいとか、ジーンから聞いたことはなかった。
「日下部さん?」
「あ、ごめんなさい。そろそろランチでもどうですか?ナルも待ってると思うから」
当然のようにナルの名前が出てきて滝川は焦る。
「…お嬢さん、何でナル坊がここで出てきたので?」
「あれ?ナルと待ち合わせしてるの言ってなかったですか?」
清は細い首を傾けた。
いやいや、全然聞いてない。
ただ一人でショッピングしていたわけではなかったらしい。
今朝、図書館に行くナルに付き添って清は家を出た。
理由はルエラに頼まれたから。
一度図書館に行ってしまえば、時間も食事も忘れて閉館まで篭ってしまう。普段はルエラがサンドイッチやら準備して持たせるのだが、今日は彼女は早朝から用事で出掛けている。
ナルの身体を心配する母に代わって清がショッピングがてら適当に休憩を取らせる役目をかって出たらしい。
ナルとは12時にグレートコートのベンチで待ち合わせしていた。
いつもの全身黒ずくめではなく、ラフなボーダーのポロシャツとタイトなジーンズ姿は大学生らしく新鮮だ。
観光客がその容姿端麗な姿に時折見惚れているが、ナルは気にした素振りも見せず目を落として手元の本を読み続けていた。
「ナル!おまたせ」
ナルは清の声にすぐに顔を上げた。
が、清の後ろの二人を見てすぐに不機嫌な顔になった。
「何で、清とぼーさん達が一緒にいるんだ?」
「観光案内してたんだよ。ほら、一緒にランチ行こ?」
ナルはすぐに図書館に戻ると言い出した。
「昼食なら、そちらの二人とどうぞ」
「ダメ。ナルも食べないとルエラに怒られるよ」