第5章 彼の日常
立ち話の中で清自身もケンブリッジ大学の現役生だと言った。
専攻は教育学で、カレッジはセントジョンズ。
ゴーストが出ることで有名なカレッジだ。
会うのが二度目の相手にガイドを頼むのは腰が引けたが、こんなチャンス二度とない。
少し勇気を出して頼むと、清はあっさり「いいですよ」と笑った。
少年のようなワクワクした滝川の眼差しを見て、安原が清に囁く。
「滝川さんはディヴィス博士のファンなんですよ」
「へぇ、日本にもファンがいるんだ」
清の視線がくすぐったい。
赤面する滝川をよそに、清はキングス・カレッジに案内すると言って歩き始めた。
数あるカレッジで一番美しいと言われるキングス・カレッジ。
中でもチャペルの美しさには二人とも目を見張った。
「すげぇな……」
「こんなとこで勉強できるなんて、僕本気で留学考えようかな…。でも、お二人ともケンブリッジってすごいですね」
「そんなことないですよ。ナルはスキップしてるからすごいんだけど」
「博士のお兄さんも頭が良かったんですか?」
清は目をパチクリした。
「……ジーンのこと、知ってるんですか?」
(あ、マズかった…?)
清はSPRに所属していない。
亡くなったジーンが麻衣の夢に出てきて、事件解決に導いていたなんて知らないのだ。
「えっと、森さんから聞いたんです」
「ああ、まどかから。そうなんですか」
清はなるほどと納得した。
「…ジーンはナルみたいに勉強好きじゃなかったから、ケンブリッジには行かなかったかも。将来の夢とか決めてないみたいだったし」
彼には何にでもなれる可能性があったんだ。