第5章 彼の日常
滝川達は一度カレッジを離れて、トリニティ・ストリートを散策することにした。
せっかくイギリスに来たのに観光らしいことをしていないし、家族友人にもお土産を買いたい。
ストリートには小さな洋服店や雑貨店が建ち並んでいて、若い女性が好みそうだ。
そう思ったとき、雑貨店のショーウィンドウに立っている女の子に目が止まった。
(あの猫のティーカップ可愛い。ルエラに買って帰ろうかなぁ…)
清にとってトリニティ・ストリートにはお気に入りの店が多い。
ウィンドウショッピングを楽しむだけでも、時間はすぐ過ぎていくから図書館に行ったナルを待つ間一人でブラブラしているのだった。
「……あの子、日下部さんの娘さんですよね…」
「……ああ。ナルの幼馴染…」
その姿は記憶に新しい。
じっと見つめていると、視線に気が付いたのか彼女はこちらを向いた。
「あ、先日は母が失礼しました!あの人酒グセ悪くって…」
清は滝川と安原の姿を確認すると、そう頭を下げた。
「いやいや。俺たちも楽しかったし」
「そうそう。そんなに気にしないでください」
そう言うと、清は顔を上げて「よかった」と破顔した。
「トリニティ・カレッジを見に来たんですか?それともキングス?」
「できたら、両方見たいなと思ってます」
「まだ午前中だから、十分大丈夫ですよ。レン図書館行きます?あそこはナルもお気に入りなんです」
「え、マジで?」
思わぬ情報に滝川は食い付いた。
もしかしてこの出会いは、チャンスなのではないだろうか。