第5章 彼の日常
トリニティ・カレッジはケンブリッジ大学を構成するカレッジの一つ。ノーベル賞受賞者など数多くの著名人を輩出しているカレッジである。
そんな格式高いカレッジにオリヴァー・ディヴィス博士が現在所属している。
ホテルからバスでカレッジまで移動して、グレードゲイトの前まで来た。
珍しく安原のはしゃぐ声。
「すごいなぁ!僕、ここ来たかったんですよ。あの門の上にいる人知ってます?創立者のヘンリー8世ですよ。椅子の脚を握ってるのは、学生のイタズラだって。
実はトリニティとキングスには絶対行きたかったんです」
「少年めっちゃ詳しいじゃん…。して、アレは?」
滝川が指をさしたのは観光客の数人の集団だ。
「カレッジツアーじゃないでしょうか?ほら、ここに書いてある」
安原が示したカレッジ入り口の掲示板には何枚かの張り紙がしてあって、英語でカレッジツアーの募集がされていた。
ただ、滝川は英語ができない。
安原は日常の簡単な会話と読み書きはある程度できるが、やはり日本語での説明を聞きたいものだ。
「ジョンを連れて来るべきだったか…」
「同感ですね」
女性陣とジョンを行かせたことを強く後悔した。
きっとあっちでも通訳として活躍しているだろう。
留学生でも何でも、都合良く日本語のできるガイドでも雇えればいいのだが。
イギリスやケンブリッジ大学のことに詳しくて、ナルのことを知っていたりしたら尚良い。
そんなあり得ない美味しい話が転がっていた。