第5章 彼の日常
イギリス滞在中のメンバー達。
朝食のブッフェ会場は見晴らしの良いレストランだった。ホテル側の配慮か、少しだが日本食も用意されている。
「じゃあ、ぼーさんも安原さんも昨日はどこにも行かなかったの?」
隣に座った麻衣が目をクリクリしながら話しかけてきた。
「だってよ、前の日朝まで飲んじまったから…。なぁ少年?」
「はは、面目ない…」
ナルの衝撃的な姿を目撃した後、勢い余って二人で朝まで深酒をしてしまった。
おかげで昨日は一歩もホテルから出ず、丸一日睡眠に費やした。
真砂子の軽蔑するような視線が痛い。
昨日、ロンドン観光を楽しんだ女性陣とジョンは今日もショッピングに出掛けるらしい。
「ぼーさんも一緒に行こ?」
「せっかくの誘いだけど、今日はちゃんと予定がある」
本当かなぁと麻衣は疑いの目を向けた。
「いいじゃないの。そんな破戒僧連れて行っても、荷物持ちぐらいにしかならないわ」
「だから、行きたくねぇの!ジョン、荷物持ちさせられそうになったらちゃんと断るんだぞ」
困ったように微笑む童顔の神父。
その横で安原は思案していた。滝川から今日の予定など一言も聞いていなかったからだ。
「で、どこに行く気なんですか?」
部屋に戻って、ジョンを見送った後安原は滝川にそう尋ねた。
「お前もあいつらと観光してきたらいいって言ってんのに…」
滝川はパラパラと旅行本をめくる。
イギリスに来たら行きたい場所は何ヶ所かあった。
ミステリーツアーや本場のSPRもそうだが、今日の目的は敬愛するあの博士の日常が感じられるあの場所だ。