第4章 Home sweet home
8月某日、イギリス。
普段ケンブリッジ大学に通う二人も今は夏休み。
「そういやナルってなんで日本に戻らなかったの?」
SPRに向かう車内で思い出したように清が聞く。
「…室長の許可が下りなかった」
室長、つまり清の母親の操だ。
彼女は今日から日本支部の人達をイギリスに招待しているからと張り切っていた。それもナルのパトロンに資金援助をお願いして。
「あれだけの人数を招待するなんて、カメラが一台買えただろうに」
ナルは恨めしそうに呟いた。
彼のためなら金を惜しまない援助者は少なくない。それを操は利用したのだ。
今頃空港に迎えに行っているだろう。
「日本の人達と会えるの楽しみ?」
「僕が?まさか」
「ルエラは楽しみにしてたよ」
今日の夜は大勢でパーティだからと今朝も下準備を頑張っていた。
「清は来るのか?」
「私はバイトだもん。それに、部外者だし」
ちょうどSPRに着いた。駐車場に車を停める。
夏休みのはじめにナルをSPRに連れて行ってから、何故か送迎係のようになっている。
まぁ、時々操も連れて来るし別にいいんだけど。
「…今日は何時に帰るんだ?」
「バイトは7時までだから、8時には帰ってると思うけど?」
ナルは小さな声で「そうか」と呟いて車を降り右手を挙げた。
いつものその仕草は「ありがとう」の意だと清は勝手に思っている。ただ、確かめたことはない。
でもどうして、そんな事聞いたんだろう?