第1章 ヤドリギの下
清はナルの部屋でレポートを仕上げていた。
宗教哲学のテストに合格できず、単位を取れるかどうかはこのレポートにかかっていた。
「宗教哲学なんか選ぶんじゃなかった…」
ナルが専攻しているからといって、選んだのが間違いだった。
キリスト教とかプラトンがどうこうなんて全然わからない。
「じゃあ諦めればいいだろう。必須科目じゃないんだし。単位が取れないからって留年するわけじゃない」
「で、でもあの教授怖いし。合格できなくてもレポートぐらい出さなくちゃ…」
怖い?
教授の顔を思い浮かべるが、称賛された記憶しかない。
ナルが優秀な生徒である所以だ。
「続きを説明してください。オリヴァー…」
半泣きの清にナルはひとつため息を落とすと、教科書を開いた。
「で、できた…」
2時間程の格闘でやっとレポートは完成した。
あとはパソコンで清書すれば完成だ。
「ありがとう、ナル」
「来年は不相応の科目を取るなよ」
ナルは立ち上がり、本棚から本を引っ張り出すとそのまま清の隣に座って読書をし始めた。
机の上には書きかけの論文が置いてある。
「今日は論文の続きはしないの?」
「ルエラにクリスマスの間ぐらいは仕事をしないよう言われてる」
「じゃあ、下に降りれば?」
「酔っ払いの相手はしたくない」
大人達(たぶん操)が騒いでいる声が扉越しに聞こえる。
確かに今降りれば酔っ払いの餌食になることは確実だ。
ナルだけじゃない。清も。
「私ももう少しここにいてもいい?」
ナルは表情を変えずに頷いた。
クッションを抱いてナルの隣に座っていると睡魔が襲ってくる。
そういえば昨日レポートを一人で仕上げようと夜中まで起きていたんだった。
船を漕ぎ始めた清に気づくと、ナルはベッドで寝るように勧めたが彼女は断固拒否した。
さすがに年頃の男子のベッドを借りるのは抵抗がある。
「ちょっとだけ、肩貸して…」
清はナルの肩に頭をちょこんと預けた。
収まりが良くなったのか、スヤスヤと寝息をたて始める。
インナー以外の人間なら無理矢理引き剥がしただろう。
否、インナーにも肩を貸したりしたことはない。
さすがにジーンならあるかもしれないが。
それでも不快には思わず、清の好きにさせることにした。