第1章 ヤドリギの下
結局、車に戻るなり清は泣き出した。
ナルは清が泣き止むのを買ったばかりの本を読みながら静かに待っていた。
「…ナルのッ、せいよ!変なこと言うから…」
「そんなつもりはないが」
普段は棘と毒ばかりの口でたまに人を気遣うようなことを言うからだ!
「わかったから、さっさと泣き止め。もう一冊読み終わるぞ」
「わかってる!」
涙をハンカチで拭う。
何だか悔しくなってきた。
「何でナルはそんなに冷静なの?」
そういえばジーンがいなくなって、落ち込んだり取り乱したりした様子を見たことがない。
「ーーいろいろと不便ではあるが。調査の時もジーンがいたらいいと思うことはある。僕は研究だけしていたいから」
「……兄弟がいなくなっても寂しいとか思わないのね…」
そうだ、ナルは元々こういう人だった。
三度の飯より心霊研究が大好き。
パトロンを獲得するための努力は欠かさないが、そもそも人を好きか嫌いかで判断しない。
インナーと呼ばれる数少ない人物が近くにいて、自分の好きな研究ができればそれでいいんだろう。
「そうだな。
でも、清も他の連中も不幸に遭うのはジーンじゃなくて僕なら良かったのにと思っただろう。ジーンは人当たりもよくて皆に好かれていたから」
「ちょっと待ってよ!私にとったら、ナルもジーンも同じように大事な幼なじみなの!
ジーンがいなくなったのはすごく悲しいけど、ナルが身代わりになったらよかったなんて思ったことないよ!
そんなこと言わないで…」
清の目には一度止まったはずの涙がまた溢れていた。
潤んだ色素の薄い瞳。
「わかった。…悪かった」
清の涙を指で拭う。
「……ッ!」
彼女は信じられないというように目を見開いて驚いた顔をしている。
心臓がドキドキする。
この気持ちは何だろう。