第1章 ヤドリギの下
下に降りると、父のマーティンは既に帰ってきていた。
彼のハグを受け入れる。
「ナル!元気そうで嬉しいよ」
「ああ。マーティンも」
ダイニングテーブルには清以外にもう一人客人がいた。
「ナル!おかえりなさい!会いたかったわ〜!」
ギュッとハグされ頬にキスされそうになる。
「やめろ、操。日本人にハグの文化はないはずだ」
「つれないわね。上司に向かって」
ナルが軽くあしらったのは清の母親だ。
そしてフィールドワーク研究室長でもある。
彼女の許可が下りなければ日本支部での調査は続けられなかった。
「お母さん、いい加減にしないと嫌われるよ。ナルはベタベタされるの嫌いなんだから」
呆れたように清は言う。
この親子は母より子の方が随分しっかりしているのは周知の事実だ。
清には父親はいない。操は未婚の母だ。
二十歳で清を産んだので、姉妹に間違われることも多い。
何をやらかしたのか、実家とも縁を切っており身内もいない。
だからこそ、軽々とイギリスに移住できたのかもしれない。
操はナルと同じかなりのワーカホリックで、清はほぼ放ったらかしでスクスク育った。
だからか自立心が強く、家事をほとんどこなしている。
清がいないと快適な生活ができなくなるのは操の方だ。
「はぁ〜い」と首をすくめて返事をすると操は席に着いた。
そしてナルも。
「…ジーン、ナルが帰ってきてくれましたよ。きっとまたすぐ日本に行っちゃうんだろうけど」
ルエラが苦笑しながらジーンの写真に話しかける。
写真の中で穏やかに笑っている彼。
皆、ジーンの笑顔が大好きだった。