第1章 ヤドリギの下
墓参りを済ませディヴィス家に着くと、先に用事を済ませて帰宅していたルエラが待っていた。
「ナル!おかえりなさい。迎えにいけなくてごめんなさいね。清、ありがとう」
「別に気にしなくていい。僕はタクシーでも帰れたし」
ルエラはギュッとナルをハグして、頬にキスする。母親の特権だ。
「まあまあ、疲れたでしょう。さあ、清もどうぞ入って」
リビングのソファに座るとルエラは紅茶を淹れてくれた。
彼女の紅茶は逸品だ。
「今日はマーティンも早く帰ってくるからごちそうにしますからね」
「私も手伝うよ。ルエラ」
ソファから立ち上がりキッチンに向かった清を一瞥し、ナルは紅茶を飲み終わると2階の自室へと上がっていった。
ボストンバックを床に置くと、ナルはベッドに横になった。
日本からイギリスまでの長旅はいつも疲労が溜まる。
阿川家の事件でジーンに会って以降、彼はナルの前に現れることはなかった。
麻衣の夢の中にも現れた様子もない。
墓地に行けば何か感じるかもしれないと思ったが、あの静かな空間に彼の気配はなかった。
双子の片割れと言えど別に会いたい訳ではない。
むしろ出会えないことを喜ぶべきなのだろう。
彼が安らかな眠りにつけたのなら。
ただあの日、大粒の涙を零していた清はジーンの死を受け入れられたのだろうか。
あの時目につかない場所で一人で泣いていた清を放っておくことができなかった。
人から触れられることが苦手なのに、彼女に胸を貸したのは何故だろう。
あの泣き顔も、小さな震える肩も今でも忘れることができない。