第1章 ヤドリギの下
ナルは清が運転する車に乗り帰路に着いた。
母が所有するminiCooperは清のお気に入りでもある。
最近では清が運転する方が多くなっていた。
「日本はどう?楽しい?」
珍しく彼は少し笑った。
「そうだな。いろいろと面白い現象が見られてはいるな」
本当に楽しいんだろう。
ナルは表情が乏しいがそれくらいはわかる。
母のつながりでSPRに出入りすることもあり、まどかとも2人で食事に行くぐらい仲良しだ。
しかし、清自身は特殊な力は持たないしその方面への興味もない。
秋からケンブリッジ大学で教育学を学んでいる。
ナルの興味は自分とは無縁なのだろう。
「清、家に着く前に寄ってもらいたい所がある」
「ん?どこ?」
ナルの申し出を快諾したのは、清もその場所に行きたかったからだ。
そこは少しだけ雪が積もり、凛とした静かな空間だった。
掃除が行き届いており、百合の花が丁寧に捧げられている。
ルエラが毎日のように通っているからだろう。
墓石にはEugene Davisと彫られている。
ここは、ジーンが眠る場所だ。
(ジーン、ナルと一緒に会いに来たよ)
静かに手を合わせ、目を閉じる。
彼のことを思い出すと今でも泣きそうになる。
感傷に浸っていたが、後ろに突っ立ったままのナルに気づいた。
「ナルも手ぐらい合わせたら?」
「何のために?ただジーンの骨が埋まっているだけだろう」
呆れるぐらい現実主義者。
「お墓は冥福を祈る場所でしょ?」
そう言ったがナルは振り返るとさっさと車の方に歩き出してしまった。
「……帰るか」
(一体何しに来たんだろう…?)