第1章 血玉髄の櫻木
「それじゃあ、まずは屍体の仮面をはずして、顔を写真に撮って。それを持って、きのう舞踏会を開催した屋敷やパーティー会場を回るよ。少なくとも被害者の身許くらいはわかるはずだ」
乱歩は言うが早いが箕浦を急かして鑑識を呼びつけていた。誰もなにも言わないということは、これが通例なのだろうか。
──あぁ、そういうこと。
正装で、なおかつ仮面をつけていたということは、昨夜開催された舞踏会に参加していたかもしれないということだ。
──いや、でも。
見立て殺人とは、ご遺体や現場の状況に意味を持たせて遺棄することだ。犯人はなんらかの意図があって正装させたのかもしれないし、仮面をかぶせたのかもしれない。被害者を昨夜の舞踏会の参加者にしぼるのはいささか性急な気がした。
「それは少し結論を急ぎすぎてないか? これは見立て殺人なんだろう」
「屍体の衣服には証拠が多数見つかってる。もし異能力者が関わっているとして、現場だけ証拠隠滅を謀るのは不自然だからね。わざわざ犯人が正装に着替えさせたとは思えない」
映は自身の胸もとを探って、この年齢にしては幼すぎるペンダントトップにふれた。縋るように、つかんではにぎりしめる。その眼には、乱歩の姿が映っていた。
──このひとは、ほんとうに探偵なんだなぁ。
映はぼうっと乱歩をながめた。碧玉の瞳に、うっすらと絶望が宿る。
──わたしとはちがう、役割をもって生きているひと。恵まれたひと。
──不公平な神さまは、なぜわたしにこんな役割を与えたの?