第1章 血玉髄の櫻木
でも、映は少しだけちがう考えを抱いていた。
乱歩は洞察力や観察眼がほかを凌駕しすぎていて、それゆえに気づきが多く、無意識のうちにあえてそれを見ないようにしているのでは。映はそう思っていた。
──あぁ、そうですかそうですか。わたしを頼りますか。なら考えてやろうじゃないの。国立大出身をなめないでほしいわ。
さらさらと風に桜が揺れる。その下にたたずむ乱歩が、ずいぶんと悲哀に満ちているようで。
映はある一篇のうたを思い出した。
「──西行法師」
「なるほど、そうきたか」
「「願わくは 花の下にて 春死なむ。その如月の 望月の頃」」
ふたりは声をそろえた。
「乱歩さんも、それなりの教養はあるようですね」
「きみのほうこそ。やっぱり連れてきて正解だったね」
規制線を越えてきた箕浦がそばに立った。いきなり詠い出したふたりをいぶかしげに見つめている。
「なんだ、その、西行なんたらとやらは」
「これは見立て殺人だ。いますぐに被害者の身辺を洗うことだね」
箕浦があわただしく捜査員に指示を出すのを見ながら、映は拍子抜けしていた。
そのとなりで乱歩がもの足りなさそうに息を吐いた。
「なんですか、道すじが決まったのにその態度は」
「だって退屈なんだもん。この程度の事件で僕が呼ばれた意味がわからない」
──たしかこのひと、二十六歳だったわよね? それでこの態度? まるで子どもじゃない……。まぁ、言っていることもわかるけれど。たしか電話では〝異能力者が関わっているとみられる〟事件だと言っていた。それはなぜ?
「まぁまぁ、この事件で推理してもらいたいのは動機でもその方法でもない。肝心の犯人だ」
「へぇ? 目星でもついてるの?」
「──いや。目星どころか、まだ被害者の身許すらわかっていない。ただ、電話でも伝えたとおり、この事件には異能力者が関わっているとみられる。──
──死因が、奇怪なんだ」
聞いたとたん、乱歩が目を輝かせたのがはた目にもわかった。
──やっと本領発揮ですか。