第3章 緑玉髄の魂
「よう、名探偵。鏡原の嬢ちゃんも。なんの用だ? ったく、こっちはいま大変だってのに」
「……大変?」
飄々と現れた箕浦は、とても急いでいるようには見えなかった。しかし大きな手でがしがしと後頭部を掻く様子は、焦燥にかられているようにも見えなくもない。
「大変なのはわかってるよ。だから来たんじゃないか。殺されたんだよね? ──
──櫻木家の、最後の当主が」
「え!?」
──どういうこと!?
櫻木家の最後の当主とは、言わずもがな櫻木婦人のことだ。映が、鏡狂いにしてしまった女。けれどもともと、若さに執着した狂者であった女。
「まったく貴様には毎度驚かされるばかりだ。お得意の推理か?」
「こんなの、事情を知る、ちょっと賢い人間ならすぐに推測できるよ。ハイリが殺すなら、本物の財前羽依理か櫻木婦人のどちらかしかいないからね。財前羽依理が生きてるのは確認できたし、あとはもう留置場にいる櫻木婦人しかいないよ」
「ちっ、呆れるほどの洞察力だな、まったくよ」
──これは、遠回しにわたしは少しも賢くないって言われてるのかな?
「ご遺体は? 解剖でもする気? だとしたら無駄だよ。なんの痕跡も出てきやしない」
「ホトケはまだ留置場だが……、見るか?」
「見るに決まってるでしょ。ほらほら、早く」
映を置いて、ふたりの間で話が進んでゆく。悲しいかな、乱歩には馬鹿にされることが多すぎて、先ほどのいやみくらいには慣れてしまっている自分がいた。