第3章 緑玉髄の魂
「ほんとに、犯人に心当たりはないんだよね?」
「そんなことを言われても………あ!」
はたと財前が声をあげた。
「な、なにか知ってるんですか!?」
「い、いえ……関係があるかはわからないけれど……。前に一度、とあるお屋敷に営業をかけたとき、ちょうどご主人は不在で、使用人のかたに名刺をお渡ししたんです。そのかたはあたしが宝飾の仕事に関わっていると知って興味を持ってくださって……。そのとき、言われました。『あなた、ハイリという名前なのですね』と。あのひと、眼が怖かった……」
「そ、そのお屋敷って、まさか……!」
「ずいぶん昔に零落した、櫻木という屋敷です」
──あぁ、なんてこと。
ハイリ(偽)と財前羽依理が繋がった。
情景がありありと脳裡に浮かぶ。
櫻木婦人に厭きてきたハイリ(偽)。そろそろ殺人を犯させ(たかどうかは不明だが)、次の一手を打ちたかった。
そんなとき、訪ねてきた宝飾品の営業。カルセドニーが大好きなハイリ(偽)は興味を持った。主人に渡すことを約束し、もらい受けた名刺を見ると、なんと彼女は自分と同じ名前をしている!
──これを好機と捉えずして、いったいどうするというのだろう。
「間違いなくそいつだね。映、行くよ」
「い、行くって……どこへ?」
「決まってるじゃん。──
──次の屍体のところだよ」