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【文スト】球体の鏡より【江戸川乱歩】

第3章 緑玉髄の魂







「ほぅら、やっぱり。人間なんて、みんな自分のことしか考えてないんだよ」



心底愉快そうに乱歩が言った。




──なにがそんなに、愉しいのだろう。




交錯する想いのはしはし、そのひとかけらを拾い集めるのが我々の仕事だと、国木田は言った。

しかし乱歩はどうだろう。
拾い集めるどころか、想いなんてものは乱雑に投げ棄てているようにさえ見える。




「利益のためにひとは生きる。それは金か、慾か、あるいは見栄か。自分の利益のために、化かし合いながら生きるものだ。ねぇ、映」


同意を求めるように乱歩は映を見た。かたちのいい唇で笑いながら、糸目がうっすらと開かれる。





──これについては、同意せざるをえない。




映はそんな慾望にまみれた人間たちに囲まれて育った。自分の利益のために、地位や権力を守るために、ひとを平気で傷つけるような人間をたくさん見てきた。そのくせうわべだけで仲良しこよしを演じている、愚かで滑稽な人間ども。




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