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【文スト】球体の鏡より【江戸川乱歩】

第3章 緑玉髄の魂






映は息を呑んだ。目は見開かれ、唇はかすかに震えた。

乱歩の瞳が怖かった。翡翠に輝く瞳が。おそろしいほどに端正で、きれいなものの中に見つけたゆがみは、それはもう恐怖以外のなにものでもない。




「なにも知らない、って、……どういうことですか」

「言葉どおりの意味だよ。きみは不祥事を隠そうと動いた会社の自尊心によって、なにも知らされずに守られている。憐れだねえ。これからも、そうやって生きていくつもりなの?」

「意味がわかりません。なにが言いたいの?」




財前羽依理は、困惑というより不審がっているようだった。もしかしたら、侮辱されていると感じているのかもしれない。無理もない。乱歩の言っていることは、聞きようによっては侮蔑となんら変わらないものだった。




「……財前羽依理さん。わが社の江戸川が失礼いたしました。これからは江戸川に代わって、わたしが説明させていただきます」


「映は常識に囚われすぎてると思うけどね」


「常識知らずの乱歩さんはちょっと黙っててもらえます?」



にこり、といつものつくり笑いを顔に貼りつけて、映は財前羽依理に向き直った。




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