第3章 緑玉髄の魂
やがて、スーツ姿の女性が部屋に入ってきた。すらっとして、いかにも〝おとなの女性〟の典型のような印象を受ける。
「あたしが財前です。武装探偵社のおかたが、いったいあたしになんのご用があるのでしょう」
梶谷宝飾側としては、個人情報が盗まれたことは誰にも知られたくなかったはずだ。ましてや本人になんて、絶対に。
──知らないのなら、そこはオブラートに包んであげるのが社会人の常識よね。
「実は、不法に入手した財前さんの個人情報が悪用されている可能性がありまして……」
「あたしの、個人情報が?」
「なんだ、なーんにも知らないんだね」
──そういえば、こいつは社会人としての常識なんて頭にないんだった……!
ぽかん、とあっけにとられたような顔をする財前羽依理(本物)に、映は勢いをつけて乱歩を振り向いた。
「ちょっと、乱歩さん!」
「なんにも知らないままのほうが、しあわせだと思う?」
「はぁ?」
「映だったらさ、なーんにも知らないまま生きていくのがしあわせかな? それだったら、たとえ死んでも、すべてを知りたいと僕は思う」