第3章 緑玉髄の魂
見るとたしかに汚れが目だつ。白を基調にきれいに保たれた床や壁面と比べるとさらに。エレガントでゴージャスな梶谷宝飾の印象ともかけ離れて見えた。
「だから、あの天窓、なんで汚れてると思う?」
「さぁ………雨でも降ったんじゃないですか?」
ここ最近では、たしかおととい。豪雨とまではいかずとも、激しい雨が降った。風が強くて、道はぬかるんで、レインブーツが泥まみれになるほどには。
「ちがうちがう! よく見てよ。汚れがついてるの、内側だよ」
「……あぁ、そうですね」
──だからなんだっていうのよ。
「ほらぁ、よく考えてよ!」
「知りませんよ、そんなの。誰かが炭酸でもぶちまけたんでしょ、知りませんけど」
「それだよ!」
「……え? 炭酸?」
──いやいや、まさか。え、ほんとに? ふりすぎたコーラぶちまけるとかありえない。ありえたとしても、あの高さに届くと思えない。
「そっちじゃなくて! ──雨が、降ったんだよ」
「……はぁ!?」
映は思いきり顔をしかめた。乱歩の言っていることが理解できなかった。
「室内じゃないですか。ありえませんよ」
「まさか、ほんとに雨が降ったわけじゃないよ。雨というよりは、……噴水?」
ついにわけがわからない。室内なのだから、雨が侵入するとしたら天窓ひとつ。しかしそれではガラスが汚れない。内側が汚れるとしたら、下から上に、床から天井に雨が降る必要があるけれど、そんなの自然の摂理に反しているじゃないか。
映は、いかにも不思議そうにいぶかしげな顔をしていたらしかった。乱歩が小さな顔に大きな笑みを浮かべて、映に言う。
「そのとおりだよ、映。この会社の、このロビーで。最近、雨が降ったんだ」