第3章 緑玉髄の魂
あのあと、〝財前羽依理〟の名刺を借りて、映と乱歩は事務所へと戻ってきた。
「この〝財前羽依理〟が櫻木の屋敷にいた使用人の〝ハイリ〟と同一人物だとしたら、わからないことがひとつある。このためだけにわざわざ性転換までするとは思えないから、姿かたちを変える異能でも持っていない限り難しい」
──もし、もしも。
──Aのような異能を、ほんとうに〝ハイリ〟が持っていたとしたら。
はたと映は息をのんだ。だって、そんなの。そう推測したとして、そこから導き出せるのはひとつしかない。
〝どうか、私の緑玉髄を、真に変えていただけないでしょうか〟
──緑玉髄になりたいのは、自分自身……?
玉髄になるには、なにか条件があったとしたら。そのために、試行錯誤を重ねて、ついにはひとを殺した。それがハイリの真実だったとしたら。
「ら、乱歩さん……」
「うん。これは、厄介かもしれないね……」
──この名探偵には、すべてわかってるの?
「とりあえずは、この〝財前羽依理〟が実在する人物なのかどうか。それをたしかめなければいけないね」