第3章 緑玉髄の魂
「あの手紙はね、──脅迫状だったんだよ」
「え!? い、いや、僕はそんな、知らなくて、あの……」
〝脅迫状〟という物騒な言葉に、少年が狼狽する。すっかりおびえて、眼には不安がにじんでいた。
「僕たちが訊きたいのは、きみが罪を犯したかどうかじゃない。脅迫状の出どころだ。きみはいったい、誰に頼まれて手紙を投函したんだい?」
「ぼ、僕は、その、……アルバイト、で……」
「アルバイト?」
「ネットで、募集してたんです。手紙を投函するだけで、伍萬圓くれるって言うから……」
──手紙をポストに入れるだけで伍萬圓!? そんな、怪しすぎるわ……。いまの子どもは、そんなに不確かな仕事に手を出してしまうの?
「それで、きみはそのアルバイトを受けたんだね?」
「はい……。掲示板には詳しく書かれてなくて、半信半疑だったんです。あんまり危なそうならやめようと思って……、指定された場所に行きました」
気まずそうに視線を泳がせる少年に、乱歩が糸目を薄く開けた。
「その場所に現れた男に、手紙を渡された?」
「……男? いいえ、女のひとでした」
──女? なぜ? 屋敷にいた使用人は、男だったはず。
「そのひと、大きな会社の管理職らしくて。これを武装探偵社のポストに届けてほしい。これは会社のトップに関する重要機密で、自分が行きたいのはやまやまだけれど、自分は管理職に就いていて、上の不正を表だって公表するわけにはいかないから、って。あ、名刺もくれました。だから信用したんです」
少年にほら、と手のひら大の名刺を差し出されて、乱歩と映はそれを覗きこんだ。
──〝㈱梶谷宝飾 経理課主任 財前羽依理〟
「梶谷宝飾って、有名なジュエリーの……、ジュエリー!? って、カルセドニーとかも扱ってますよね? ……あれ? ちょ、ちょっと、乱歩さん! これ、この名前! 〝ハイリ〟って読むんじゃないですか!?」
「わかってるよ、うるさいなぁ」
なんにせよ、この〝財前羽依理〟なる女性を、探しだす必要があるようだった。