第1章 血玉髄の櫻木
「はぁ!? ちょっと、わたしはあくまで事務員で、」
「あぁ、苗字はきらいなんだっけ? ほら、早く行くよ、映」
──そういう問題じゃない!!
営業スマイルも忘れて吼えた映を尻目に、唯我独尊を貫いた乱歩は出口をくぐってしまう。
「ちょっと! 国木田さん!」
「……あきらめろ。就職難なんだろう」
──それつまり、行かなきゃクビですか!?
「あぁ、もう! 行けばいいんでしょ行けば!!」
映は椅子の背にかけてあったレザーのジャケットを引っつかんで出口を目指して歩いた。かつかつとパンプスが怒ったように音をたてる。
がっちゃん、とわざと大きく音をたてさせた扉を背に、映は忘れずにあいさつした。
「どうも。行ってまいります」
扉がばたんと閉まる。
茫然とする探偵社員たちは、去りぎわに映が見せたとびきりの営業スマイルに震え上がり、そして祈りながら業務に取りかかった。
──願わくば、そのとばっちりが僕らに来ませんように!