第1章 血玉髄の櫻木
──まさかこんなに早く見破られてしまうとは。
映は驚きとどうじに乱歩に興味をもった。自他ともに認める〝名探偵〟。福沢は、なにを隠していてもいずれ見破られるだろうと映に言った。その意味を、よくやく理解した。
──別にばれたところで、そのうえで事務員を希望すればなんの問題もない。
映はふたたび笑った。それは映の唯一の自衛策であり、そこから先に入りこまれないためのバリアであった。
じりりりりりり、始業のジャストタイムで電話が鳴った。これさいわい、と映は与えられたデスクにつき、電話には敦が出た。
「はい、武装探偵社です! ……はい、はい、乱歩さんですか? わかりました。すぐに向かいます! はい、失礼します」
「敦、事件か?」
「はい。異能力者が関わっていると見られる他殺体が発見されたそうで、軍警のほうから乱歩さんに来てほしいとの要請が」
「事件だね? すぐに行こう。これできょうくらいは退屈をしのげそうだ」
乱歩があまりに軽々しく言うものだから、映はわずかに耳をかたむけた。
──もしかしたら、彼なら。
乱歩なら、自分を救ってくれるかもしれない。
だって、と映は思う。
──だって、あのひとには他人への関心というものがいちじるしく欠けている。事件はあくまで〝退屈しのぎ〟であり、また〝自分の才能をひけらかす好機〟だととらえているのなら。
──わたしにも、わたしの異能にも、色眼鏡は使わないかも。
「それじゃあ敦、行ってくれるか」
「あ、はい!」
「──待って」
いつものように、ひとりでは鉄道にも乗れない乱歩のつき添いを国木田が敦に頼んだところで、それを止めたのは乱歩だった。
「彼女がいい」
乱歩が指をさしたのは──異常事態に感づいてこちらを見ていた、映だった。