第3章 緑玉髄の魂
防犯カメラのモニターは社長室にあった。
確認するためには福沢に事情を話さなければならない。あれで福沢は社員思いの男だ。無骨で、寡黙で、それでいてその異能力とともに自分のすべてをもって社員を思う。
「それを、乱歩個人ではなく、〝探偵社〟への依頼とするならば、許可する。社員が危険にさらされるのならばその責任は、社と、その長である私が負うべきだ」
「それでいいよ。福沢さんならそう言うと思ってた。いつまで経っても、ほんと、真面目だねえ」
──厳格な父と、息子かしら。
乱歩と福沢の関係は、もはや実の親子のそれをも上回っているような気がした。絶大な信頼と、たしかな時間が、ふたりの関係をつくりだしている。
──うらやましい。
映には、そんな相手はいなかった。実母実父はもってのほか、信頼できる人物など、親類縁者一族郎党どこを探しても見つからないだろう。
「ねえ、カメラの映像、早く!」
「あ、あぁ、わかった」
ポスト周辺の防犯カメラ映像をモニターに表示させる。そこには、学生服を身につけた男が映っていた。
「彼は……、いいえ、ちがうわ。あの屋敷にいた使用人ではない」
「あの帽子ぎらいくんは慎重だよ。おそらくは雇い入れたただの学生だ」
──帽子ぎらい?
「あの、帽子ぎらいくん、って?」
「あぁ、彼、帽子きらいなんだって」
──どこで知りえたんだろう、その情報……。