第3章 緑玉髄の魂
乱歩の言うとおり、この話には続きがある。
映は鏡原家の次女だった。
そして、映は鏡原婦人──認めたくないが母親──の、〝人形〟だった。
映は整った顔だちをしていた。どちらかというと母親に似ていて、対する長女、つまり姉は父親に似ていた。
鏡原婦人は、自分に似ているからといって、長女よりも映をかわいがった。
きれいな服を着せて、うすく化粧をほどこして、アンティークの椅子に腰かけさせて。それでにこにこ笑っているだけで、鏡原婦人は映を褒め称えた。
──いつからだっただろう。あのひとが、狂いはじめたのは。
鏡原婦人は、映の父親が娶るにしては、若く美しかった。そして、鏡原婦人はそのことをよく知っており、それを誇って有効利用していた。
白くハリのある肌。黒く艶めいた髪。すっととおった鼻すじ。大きく潤んだ瞳。なめらかな肢体。豊かなふくらみと、それを支えるくびれ、細い腰。すらりと長い脚。
そのどれもが蠱惑的に男を誘い、まるで毒蜘蛛のようにそれらを支配した。
けれど、美しさはいつまでも続かない。歳とともに若さは失われてゆき、だんだん婦人は鏡をいやがるようになった。
透きとおるようだった肌にはシミが浮かび、くすみ、化粧乗りも悪くなった。黒髪からは艶が失われ、枝毛と白髪が増えた。あんなにきれいだった瞳はにごり、なめらかに曲線を描いていた身体には肉がついた。ふくらみはしぼみ、くびれは消え、脚は太くなった。
──あぁ、こんなのは私じゃないわ! 私がこんなに醜いわけがない! ねぇ、そうでしょう、映!
そうだ。醜くなってしまった頃から。あのひとは。
「ねぇ、映。あなたは私の生き写しよね? あなたは私のお人形。あなたの若さを私にちょうだい」
映は、その日から、もう母とは呼べない女の人形になった。